語学楽天は英語公用化でどう変わった?担当者に直撃

2010年に英語公用語化を宣言し、第一次英語ブームの口火を切った楽天。全社員へTOEIC800点取得を要求し、国内向け部署でも英語会議を義務化するなど、その施策は他の公用語化企業と比べても最も急進的な内容だった。

 あれから7年で社内はどう変わったのか、公用語化の果実は得られたのか。社内の制度設計に関わり、現在は公用語化のノウハウを生かした教育事業などに携わる葛城崇・教育事業部ジェネラルマネージャーと、葛城氏の後任として英語推進を担う周藤俊昭・人材開発課シニアマネージャーに話を聞いた。

2010年から英語公用語化の準備を始め、12年から実施。これまでの成果を聞かせてください。

葛城崇・教育事業部ジェネラルマネージャー(以下、葛城):10~13年に英語公用語化の推進役を務めました。宣言から7年経って、会社の一番の変化はダイバーシティ(多様性)だと思います。公用語化前は国内の外国人比率が2%。今は20%を超え、エンジニアでは50%近くになります。世界70カ国以上から社員が集まってきていますが、エンジニアでいえばインド、中国が多い。両国の有名大学から優秀な学生を新卒採用できるようになりました。

 個人レベルでの大きな変化は、キャリアの選択肢が広がったということでしょう。現在TOEICの点数は、帰国子女などを除いた平均で830点超。海外の展示会や研修の派遣にほぼ全員が参加できるようになっています。海外赴任も身近になったし、海外子会社の社員も英語で仕事ができるので日本に来やすくなりました。

楽天流の英語推進のポイントは何でしょうか。

葛城:まず、グローバルな部署はもちろんドメスティックな部署でも関係なく対象にしたこと。社員それぞれの学習量や到達レベルを見える化して、経営陣まで共有したこと。そして、人事部でトレーニングを考案するなど全面的なサポートをしてムーブメントに昇華させたことだと考えます。

全員を巻き込むというのは難しいことですよね。業務に普段から使わなければ、モチベーションも湧かないのではないでしょうか。

葛城:楽天は若い社員が多かったこともあるでしょうが、必要性を理解している人が多かったと思います。少子高齢化の日本だけで勝負し続けるのが限界なのは明らかです。社員も、英語は苦手だけどやらなきゃいけない、という思いを持っていたようです。

楽天は国内でもM&A(合併・買収)を多く手がけています。ドメスティックな文化に馴染んでいた買収企業の社員は辛かったのでは。

葛城:今は英語はいらないかもしれない。でも人事異動でグローバルな部署に行けば、その日から英語が必要になります。また、インターネットで日本語と英語のサイトの数を比較すると、実に10倍にもなります。つまり、英語ができる人はできない人の11倍の情報収集能力を持つことになる。このことは社員もわかっていたんです。英語を学ぶよう納得させたというよりは、社員が思っていたことを改めて伝えたという方が正しいでしょう。

「英語の成長は階段状」

そのモチベーションを維持するポイントは何でしょうか。

葛城:スポーツと一緒で、英語の能力は右肩上がりの直線ではなく、階段のように伸びていきます。しばらくは成長の実感がなかなか得られないが、あるとき突然伸びる。この最初の一段を登るまでサポートするのが重要です。そのためにはトップダウンの命令だけでなく、英語の勉強を楽しんでもらう仕掛けも必要。楽天ではゲーム形式で英語を学べるトレーニングを開発しました。

TOEICの目標を達成するまで居残る合宿なども開催していました。これだけ投資をかけて見合う効果はあったのでしょうか。

周藤:英語公用語は企業としての戦略です。通常の人事予算とは違う枠組みで投資をしました。こうした形で組織が活性化することもあります。日本において英語で働ける企業といえば楽天、というイメージもできました。人材獲得にかける広告費を削減できた側面もあります。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/113000186/113000002/