旧優生保護法10代だった頃に国に不妊手術を強制された女性、初の国提訴「尊厳を侵害」

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171203-00000002-mai-soci
 ナチス・ドイツの「断種法」をモデルとした国民優生法を前身とする旧優生保護法(1948~96年)の下で、国が知的障害などを理由に不妊手術を強制したのは個人の尊厳や幸福追求の権利を保障する憲法に違反するとして、当時10代だった宮城県内の60代女性が国を相手に国家賠償と謝罪を求めて来年1月にも仙台地裁へ提訴することが分かった。女性は不妊手術を理由に縁談が破棄された経緯があり、現在も独身。旧優生保護法に基づく障害者らへの不妊手術は全国で約2万5000件確認されているが、国への提訴は初めて。

 女性の代理人弁護士らによると、女性には重い知的障害があり、生理が始まった10代で不妊手術を受けた。しかし、事前に国や宮城県側から手術について説明を受けたり、同意を求められたりした記憶はない。

 女性は手術後、腹部にたびたび違和や痛みを覚え、20代で入院。卵巣の組織が癒着する悪性の卵巣囊腫(のうしゅ)と診断され、右卵巣の摘出を余儀なくされた。さらに、不妊手術が原因で縁談もなくなったという。

 女性は今年6月、県に対し、当時の「優生手術台帳」の情報開示を請求した。開示された資料には、不妊手術は、県の審査を経て72年12月に「遺伝性精神薄弱」を理由に行ったと明記。県北部の病院で、卵巣と子宮を結ぶ卵管の峡部(きょうぶ)を縛る処置が施されていた。

 優生保護法は、医師が必要と判断すれば、都道府県が作る審査会での決定を経て遺伝性の疾患や精神障害のある男女らの不妊手術を「優生手術」と呼び強制できるとしていた。

 だが、2016年に国連女性差別撤廃委員会が被害の実態調査と補償を行うよう日本政府に勧告。今年2月には、日本弁護士連合会が「優生思想に基づく不妊手術や人工妊娠中絶は自己決定権などを侵害し、遺伝性疾患や精神障害などを理由とする差別」との意見書を発表し、国へ謝罪や補償などを求めている。

 女性が提訴に踏み切るのは、こうした時代の変化を受けたもので、女性側は取材に「憲法13条に定められた幸福追求権などをないがしろにしており違憲。当時は適法だったとの言い分は到底受け入れられない」と主張している。請求額は今後詰めるという。

 ◇相談窓口を設置

 女性の弁護団は提訴に合わせ、旧優生保護法の下で不妊手術を受けた当事者らのための電話相談窓口を設置する。女性と同様の訴えが集まれば、集団訴訟も検討するとしている。【遠藤大志

 【ことば】優生保護法

 「不良な子孫の出生を防止する」ため1948年に制定され、遺伝性疾患や知的障害、ハンセン病の患者らへの不妊手術、人工妊娠中絶を認めた。批判を受けて96年に「母体保護法」に改定されたが、日弁連によると、中絶手術は約5万9000件、不妊手術は本人の同意を得ていない約1万6500件を合わせ約2万5000件に上った。同様の法律が過去にあったドイツやスウェーデンでは、国が被害者への補償制度を設けている。