IT増加する個人データを“安全に共有” ビジネスチャンスに

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12月3日 14時26分

自動車や家電製品などあらゆるモノがインターネットにつながる「IoT」が普及して、今後、製品の使用履歴など個人データが飛躍的に増えていく見通しです。こうした膨大な個人データを多くの企業が安全に共有できるようにして、新たなビジネスにつなげようという取り組みが動きはじめています。

このうち大手電機メーカーの富士通は、本人の同意を得て集めた個人データを、企業に有料で提供する「情報銀行」と呼ぶサービスの実験を始めました。

実験では、200人を超える社員から年齢や性別、家族構成といった基本的な情報のほかに、趣味や休日の過ごし方、「よく食事をする場所」や「引っ越しの予定があるか」といった、およそ500の質問に対する答えを集めました。

集めた回答を流通大手イオンの協力を得て分析し、企業にとってより役立つ質問内容などを検討しています。実際の事業化にあたっては、質問に答える抵抗感を減らすため、情報を提供する企業を自分で絞り込めるようにしたり、飲食店のクーポンなどを提供したりする方法を検討するということです。

実験の担当者の築山万里沙さんは「管理や活用のしかたによって、ビジネスチャンスが生まれると思う」と話していました。

一方、国内の電機メーカーやベンチャー企業などおよそ40社は、個人データなどの取り引きを活性化するため、先月、「データ流通推進協議会」という団体を立ち上げました。

この団体では、データを安全にやり取りするためのルールや、データを扱う企業を認定する制度を整備して、企業などがデータの取引市場を作る動きを後押しします。理事長を務める慶応大学の村井純教授は「安心安全にデータを使えるようにすることが重要だ」と話しています。

個人データ利用の背景と課題

インターネットから得られる個人データを多くの企業で共有し、有効に活用しようという機運が高まっている背景には、自動車や家電製品などあらゆるモノがネットにつながる「IoT」の普及が進んで、収集可能なデータの数や種類が一気に増加することがあります。

さらに、サイトの検索や閲覧の履歴ではグーグル、買い物の履歴ではアマゾンといったように、パソコンや携帯電話では、アメリカのIT大手が囲い込んできた個人データが、今後は、あらゆる場所で収集できるようになり、日本企業にとってもチャンスが広がるという見方もあります。

ただ日本の消費者は、海外に比べて個人データを提供することに不安感や抵抗感を持つ人が多いという指摘もあります。JR東日本は4年前、ICカード乗車券「Suica」の利用データを個人を特定できない形にして、ほかの企業に提供していましたが、利用者の反発を招き、一時的に停止する措置を取りました。

このため、個人データの取り引きが普及していくには、本人の同意を得る仕組みや、情報の流出を防いで安全に取り引きする仕組みをいかに整備していくかが課題となっています。

個人の位置情報売る試みも

個人のスマートフォンから位置情報を集め、企業に提供するサービスをビジネスにできないかという試みも始まっています。

アメリカのベンチャー企業、「エブリセンス」の日本法人は、スマホに専用のアプリをダウンロードしてもらって個人の位置情報をリアルタイムで収集し、そのデータがほしい企業への販売を仲介する事業を試験的に始めました。

このアプリでは、現在地や移動した経路、それに徒歩や車など移動手段が類推できるように、移動の「加速度」が記録されます。企業は位置情報を提供する個人に報酬を支払ってデータを買い取り、エブリセンスは個人と企業の仲介役として手数料を得る仕組みです。登録者はおよそ1500人に上り、この会社にはネット広告の効果的な配信に役立てるため、個人の行動範囲を知りたいという会社などから問い合わせが寄せられているということです。この会社では、こうしたデータを企業どうしで取り引きする市場も作りたいと考えています。

日本法人の真野浩代表取締役は「個人が主体的にデータを出したり、データを活用していく仕組みを整えていくことで、情報の価値がさらに高まると思う」と話しています。